2009年12月9日水曜日

知財高裁 平成 20年 (行ケ) 10398号 審決取消請求事件

本件発明の課題が周知であったとは言えず、また、引用例には本願発明に想到することを動機付ける開示又は示唆もないから、進歩性無しとした審決が誤りであると判断された事例です。

『…
 ウ したがって,本件各発明において,個々の化粧用パック材にWJ加工を施すことにより解決すべき主たる課題は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止にあったということができる。
 エ そして,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することが,本件出願当時の当業者にとって自明又は周知の課題であったと認めるに足りる証拠はなく,かえって,被告が,化粧用コットンはコットン繊維を積層したものであるため層の境界から容易に剥離することのできるものであると主張するところ(取消事由2に係る主張(3)ア)に照らすと,本件出願当時の当業者は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止することを解決課題として認識していなかったものと認めるのが相当である。

 イ 上記引用例の記載によると,WJ加工は,ふっくらと仕上げられ,内部に空気を含んでかさ張った状態となる単位コットンを圧縮包装するとの構成を採用した発明において,単位コットンをふっくらとした,毛羽立ちが少なく,肌に優しい状態のものに仕上げるための手法の一例として挙げられているにすぎず,その他,引用例には,積層構造体として形成された単位コットンから各層を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため,各層にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆はない。
 また,上記甲7刊行物の記載によると,WJ加工は,綿体の繊維離脱を防止するために綿体を2枚の不織布で挟むとの構成を採用した考案において,パッティングに使用する側の不織布につき,その繊維を絡み合わせて成型し,湿潤時における強度を上げるなどするための手法の一例として挙げられているにすぎず,その他,甲7刊行物には,パッティング材からシート部材を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため,各シート部材にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆はない。
 さらに,上記甲11公報の記載によると,同実用新案登録出願に係る考案は,従来の化粧綿(繊維残りを解消するため繊維ウェブ(内層)に不織布(表面材)を重ね合わせて一体化した上,柔軟性を付与するため不織布(表面材)にWJ加工を施したもの)がなお有する課題(形崩れを起こすこと又は柔軟性が不十分で触感に優れないこと)を解決することを目的とし,形崩れが少なく,かつ,柔軟で肌触りの良い化粧綿とするため,所定の量の疎水性繊維を混抄したレーヨン短繊維スパンボンド不織布(表面材)に高圧水を噴射するとの加工を施すというものにすぎず,その他,甲11公報には,化粧綿からシート部材を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため,各シート部材にWJ加工ないし高圧水を噴射するとの加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆はない。
 ウ そして,その他,本件全証拠によっても,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)が存在するものと認めることはできない。

 上記(1)及び(2)のとおり,化粧用パック材にWJ加工を施すとの本件各発明の構成は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止を主たる解決課題として採用されたものであるところ,同課題が本件出願当時の当業者にとっての自明又は周知の課題であったということはできず,また,引用例を含め,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)は存在しないのであるから,仮に,本件審決が判断したとおり,引用発明に周知事項1及び2を適用して各層(化粧用シート部材)の側縁部近傍を圧着手段により剥離可能に接合するとともに,各層を化粧用パック材として使用することが,本件出願当時の当業者において容易になし得ることであったとしても,また,引用発明の単位コットン(化粧用パッティング材)がWJ加工を施したものであることを考慮しても,これらから当然に,各層を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用する際にその使用形態に合わせて各層にWJ加工を施すことについてまで,本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得ることであったということはできず,その他,引用発明の各層にWJ加工を施すことが本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得たものと認めるに足りる証拠はないから,相違点1に係る各構成のうち化粧用パック材にWJ加工を施すとの構成についての本件審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。』
判決言渡日:2009年10月22日

(H.O)

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