2009年12月24日木曜日

知財高裁 平成 20年 (行ケ) 10486号 審決取消請求事件

米国における臨床試験の一部が、延長登録期間(特許発明を実施することができない期間)に該当しないと判断された事例です。「承認を受けるのに必要な試験を開始した日」が、臨床試験を実施することが治験計画届や治験を実施する医療機関との契約書等により客観的に明確になった日であることも示されました。

『「特許発明の実施をすることができない期間」該当性に関する判断
ア 以上の事実によれば,①米国の効能追加承認においては米国初回臨床試験の10症例の成績のみでレジオネラ肺炎に対する効能・効果の追加承認がされており,本件米国臨床試験は必要とされなかったのであるから,その後に申請される日本での同様のレジオネラ肺炎に対する効能・効果の追加承認においても,米国初回臨床試験のデータのみがあれば足り,本件米国臨床試験は必ずしも必要とはされなかったであろうと合理的に推認することができ②本剤と同じフルオロキノロン系薬の1つであるメシル酸パズフロキサシンのレジオネラ肺炎に対する効能・効果の追加に関する上記審査において,本件承認申請と極めて類似した状況の下で効能追加の承認がされたことからすると,メシル酸パズフロキサシンの6症例を上回る10症例に係る臨床試験データを有する米国初回臨床試験があれば,本件米国臨床試験データがなくとも,日本での本剤の効能追加の承認がされたであろうと合理的に推認することができる。
 この点について,原告は,メシル酸パズフロキサシン(甲10)は,経口剤よりも即効性の高いレジオネラ肺炎に対する国内唯一の注射剤であって,致命的な疾患であるレジオネラ肺炎について医療上の緊急性から極めて例外的に承認されたにすぎず,既にレジオネラ肺炎に対する効能が承認済みの他の経口抗菌剤が存在する状況の下では,経口剤である本剤の承認申請については,メシル酸パズフロキサシンと同様の審査がされて承認されたであろうとはいえない旨主張する。しかし,致命的な疾患であるレジオネラ肺炎を適応とする点では本剤もメシル酸パズフロキサシンも同じであるから,原告の上記主張は前記の合理的推認を覆すに足りない。
イ したがって,本件延長登録がされた期間4年11月7日のうち,本件米国臨床試験に係る期間1年8月23日は,特許法67条2項にいう「政令で定めるものを受けることが必要であるために,その特許発明の実施をすることができない期間」には該当しない。これと同旨の審決の判断には誤りはなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(日本の承認に向けた活動再開日から本件国内臨床薬理試験開始日までの期間を延長期間に算入しなかった誤り)について
・・・
(2) また,原告は,実際の治験計画届の提出前には,医薬当局と新たな臨床試験が必要かどうか,どのような枠組みで承認申請をするかなどの協議をしたり,臨床試験を実施してくれる医師を探して依頼したりする作業期間が必要であり,これらの準備作業をした平成14年12月19日以降の期間は,実質的にみても,「政令に定めるものを受けることが必要であるため,その特許発明の実施をすることができない期間」の起算日(承認を受けるのに必要な試験を開始した日)に該当するというべきである旨主張する。
 しかし,原告の上記主張も理由がない。すなわち,準備がいつどのように開始され,継続されるのかは第三者にとって必ずしも明確ではない。したがって,仮に,不明確な準備作業の開始日をもって「承認を受けるのに必要な試験を開始した日」(最高裁判所平成10年(行ヒ)第43号平成11年10月22日第二小法廷判決参照)に該当するとするならば,延長登録期間の客観的な確定を困難にさせ,予見可能性を担保することができなくなる。したがって,臨床試験を実施することが治験計画届や治験を実施する医療機関との契約書等により客観的に明確になった日をもって,「承認を受けるのに必要な試験を開始した日」であるとして,「政令に定めるものを受けることが必要であるため,その特許発明の実施をすることができない期間」の進行が開始するものとするのが相当である
判決言渡日:2009年10月28日

(H.O)

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